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航空管制部区域は一般の車両等の立ち入り禁止区域になっており、通
行許可証を持っていない車両は通行できない。
航空管制部に無関係の車で唯一許可されているのがローチ・コーチと呼
ばれている移動販売車で、昼食時間に管制塔の傍に駐車する。
その車はハンバーガーやホットドッグなどを積んで、決まった場所を移動
しながら商売をしている。
最近のテレビで、限界集落と呼ばれている、高齢者が大半を占める地
域に出かけて食料品を届けている移動販売車を見て、基地のローチ・
コーチを思い出した。
この販売車の運転手は日本人のオジさんとオバさんで、シフトで勤務
している。
規則はきちんと守って、Taxi Wayの手前で一時停止をし、航空機や車
両がいない事を確認し徐行で進入して来ます。
時々Towerの上からライト・ガンの緑の光がローチ・コーチに向けられ、
カチッ、カチッと点滅しているが、この点滅は「進入してよし」の合図で
、飛行機など一機もいないのに、若い管制官が暇つぶしにやっている
のである。
ローチ・コーチの到着は直ちにRAPCONへホットラインで知らされ、管
制官がぞろぞろ出てきて毎日同じメニューの中から何を買うか思案し
ている。
時々管制塔の上から、どこで見つけてきたのか、八百屋さんにある
ザルに長い紐をつけて、その中に小銭と注文の品を書いたメモの上
に石を載せ、スルスルと下に降ろし、上から「それをくれ」と怒鳴って
いる。
そのザルは一番後回しで、その間、兄ちゃんはじっと下をみて待っ
ているところがとても可愛い。
やがて注文品とオツリと石がザルに乗せられ、スルスルと6階まで
引き上げられ、ローチ・コーチも引き上げ、我々も含めてジャンク・
フードを買った全員が引き上げて、何も無かったように静寂が戻っ
た。
航空管制関係の建物も建物付近も、全て「許可無き者の進入を禁ず」とな
っており、たとえ米軍人でも関係者以外は勝手に入れない。
関係者は全て名前が登録されていて、時々IDカードの提示が求められ
る。
建物の入り口は全てロックされており、銀行のATMではないが、4桁の暗
証番号を入力しなければ開けられない。
それにしてもこの暗証番号が曲者で、その建物のチーフがその日の気分
次第でコンビネーションを変更するので、しばしば混乱することがある。
例えば午前中には入れたのに午後にはコンボ変更されて、電話で連絡
して扉を開けてもらう始末である。そして改めてチーフにコンボを聞いて、
後で手帳に書いておくのである。
一度チーフの前で手帳に書こうとしたら、「書くな、暗記しろ」と言われた
ことがあるので、彼の前では書けない。
しかし我々が仕事に行くところは扉に「許可無き者の立ち入りを禁ず」と
書かれたパネルが張られているので、それらの扉の全てが暗証番号に
なっていて、さらに定期、不定期に番号の変更があるので8ヶ所の暗記
など、とても出来るものではない。
RAPCONの我々保守関係者が居る部屋は、鉄の扉一枚で外に自由に
出られるようになっており、帰る時はそこから出て行く。
ある時、その鉄の扉を外からドン、ドン叩く不審者がおり、誰かと思って
開けてみると、そこには例のお騒がせRAPCONチーフが立っており、
「Thank you! Do you remember the combination ?」と言いなが
ら入ってきた。
自分が決めたコンビネーションを忘れたのか、思い出せないのか、
そんな事はどうでもいいのである。
彼は少佐でここのボスだから出入りは自由なのである。
私達が常駐していた送信所は比較的建物も新しく、当然のことながら
台風が来ても雨漏りなどは一度もない。
酷かったのは管制塔で、信じられない事かもしれないが、大雨が降る
と機器室に雨漏りが始まり、無線機などに滴がポタポタ落ちて来る。
その時は大急ぎでブルーのビニールシートを担いで管制塔に登り、
様々な機器が設置されているラックにシートをかけて雨漏りを防ぐの
である。
管制塔のエレベーターはかなりの年代物で、30年前に故障して以
来使われていない。
重たい測定器を担いで、あの狭い階段を登る時は何時も富士山の
"強力"の事が頭をよぎりる。
ごく最近の新聞に、老朽化した管制塔の傍に真新しい立派な管制
塔の写真が載っており、もうすぐ運用が始まる旨の記事が出ていた。
もう雨漏りもエレベーターの心配もないが、どの位我国の血税が投入
されたのか大変気になるところである。
どこの空港でも航空管制部にはRAPCON(Radar Approach Control
の略) がある。
ここのレーダーで羽田の一部の空域の航空機の管制を行っている。
このRAPCONの建物は古くて狭く、管制室と壁1つの通路にスナック
菓子の自動販売機やコーラなどの自動販売機が置いてあり、休憩
中の管制官等が25セントを放り込んでポテトチップスなどを買っている。
ある日、管制室で仕事をしている時、急にドッスン、ドッスンという音と
地響きが始まり、皆何事かと驚いて通路に飛び出すと、そこには自動
販売機を斜めにしているRAPCONチーフ(少佐)がおり、「クソッ」と言い
ながら、途中で引っかかった自分のチョコスナックを出そうと販売機を
前後にゆすっていたのである。
何回かの余震の後で、「コトッ」と音がしてお目当てのチョコが出てきた
ので、チーフはおもむろにそれを取り出し、もう一度「クソッ」と言いなが
ら販売機に一発蹴りを入れ、悠然とチーフ室に戻って行った。
それを眺めていた管制官も我々も何事も無かったようにそれぞれの仕
事に戻った。
彼がここのボスなので誰も何も言えないし、軍人なのでつまらぬ告げ
口をする者はいない。
それにしても25セントのチョコの奪還に命を賭ける少佐の”ど根性”に
は脱帽するばかりである。